「サッカー本大賞2017」の選評を公開!!

2017年4月5日

 

「サッカー本大賞2017」優秀作品11冊の選考委員による選評を公開します。

こちらを読んで、少しでも興味を持ったらまずは1冊手に取ってみていただければ幸いです。サッカー本の楽しさに触れることができるはずです。

 

選考委員による選評  ※作品は五十音順で並べています

 

■自分を開く技術(本の雑誌社 刊) 伊藤壇 著

 

【選考委員評(幅 允孝)】

本書に収録されている「伊藤壇が渡り歩いてきたアジア各国の違い」の一覧表だけでも一読の価値がある。サッカー選手を通じた仕事論として完成度は高い。

 

【選考委員評(実川元子)】

「海外でプレーしたい」という夢を叶えたサッカー選手が、どのように道を切り拓いてきたのかを具体的な情報とともに記録したユニークな本。これだけ海外でプレーする日本人選手が増えてきた中で、なぜこれまでこういう本が出なかったのかと目からウロコだった。情報収集、人脈作り、生活の基盤を作ることも含めて自力で道を切り拓いてきた著者だからこそ知っている情報が満載で、中でも日本とは違う文化の国で何に気をつけたらいいのか、どれだけ生活費がかかるのかといった情報が非常に貴重。素直な文体も好感が持てる。これから海外でサッカーをしたい人にとってもとても参考になるはず。

 

■『能町みね子のときめきサッカーうどんサポーター』、略して 能サポ(講談社 刊) 能町みね子 著

 

【選考委員評(佐山一郎)】

発掘本大賞のようなことになってすみません。とまずお詫びしないといけません。商売柄というか、あるいは、さすが目利きというか、選考委員の幅允孝氏が「そういえば、能町さんの本も…」と危険物を取り扱うかのように教えてくれた瞬間、突如ダークホース出現というのが授賞の真相なのでした。

じつはこの私自身も『能サポ』によって久々に「読書の快楽」のようなものを味わうことができました。個人的な事柄で恐縮ですが、スポーツ書の新刊評を2002年に朝日新聞でスタートすることになって今ちょうど15年。冊数で言えば200くらいの数ですが、さすがに疲れて来て、そろそろ店じまいかなと思うことが増えています。その背景には、新鮮味を感じさせてくれるスポーツ本との出会いが減ってきたことがあります。血気盛んな壮士風文体も結構だけれど、時には(内田)百鬼園先生の『阿房列車』や、イラストレーター渡辺和博(ナベゾ)さんの世界を彷彿させるこうした良い意味での「変(へん)さ」にも触れてみたい。そんな待てば海路の日和ありの嬉しさとともに『能サポ』を推させていただきました。

能町さんには、サッカー・ライティングを期間限定のものにせず、またいつの日か素晴らしい題材を見つけて私のようなくたびれた読者を癒して欲しいとお願いしておきます。

 

【選考委員評(幅 允孝)】

サッカーどころかスポーツにもそんなに興味がない方が、敢えてサッカーを取り上げるセンス・オブ・ワンダーが本書にはある。限られた嗜好や文脈のもとでサッカージャーナリズムの世界観ができあがっていくなか、それを壊す役割を果たす1冊でもある。もう一度、ゼロ視点を取り戻す装置になるというか…。文体が優れているだけでなく、着眼点の鋭さや取材力も感じることができる。そしてうどんがおいしそう。

 

【選考委員評(実川元子)】

サポーターの手記であるが、サッカーにあまり詳しくないことを前提にしたところで、軸足がいかに楽しく「サポーターライフ(旅)」を楽しむか、に置かれている。何よりも読みやすい。サッカーにまるで関心がない人も読める。(実川としては、これが「サッカー本大賞」でいいのか、という疑問はまだ残っています。サッカー本大賞候補作品に入れることは納得ですが、サッカージャーナリズム(というものがあるのだとして)としてこれからのサッカー界になんらかの貢献をするかと言われたら、首をかしげざるを得ないです)。

 

■サッカー通訳戦記 戦いの舞台裏で“代弁者”が伝えてきた言葉と魂(カンゼン 刊) 加部究 著

 

【選考委員評(幅 允孝)】

通訳に焦点を当てて、そこから日本サッカーの軌跡も読み解けるようになっている。これまでも通訳単体での本というのはあったが、複数の通訳を並べて共通と差異を炙り出していくという企画そのものが面白いと思った。

 

【選考委員評(実川元子)】

あらためて「言葉」の大切さを認識させた内容。サッカーだけでなく、スポーツは「言葉」も含めた身体表現なのかも。私は間瀬さんのところが面白かった。

 

■KFG蹴球文化論(壱)革命蜂起編/(弐)革命奮起編(impression 刊) 錦糸町フットボール義勇軍 著

 

【選考委員評(幅 允孝)】

はじめに本の企画というより熱意があった点が本書の魅力だろう。有志が集まり、彼らの情熱や笑いみたいなものが少しずつ伝播していった結果として一冊の本になった。自由闊達な内容はもちろん、こうした街場のサッカーの熱伝導を応援するという意味でも優秀作品として表彰され、存在を知られることに意味があった。

 

 ■ことの次第②(ソル・メディア 刊)倉敷保雄 著

 

【選考委員評(幅 允孝)】

ずっとサッカーの世界、実況の世界にいる倉敷さんだからこそ書ける内容なのだが、サッカーと他の事象との結節点を探し続ける姿勢に共感を覚える。とことん外に対して開き、色んな人やコトと関係を結んだ先にあるサッカーの地平が本書からは見える。

 

【選考委員評(実川元子)】

対談相手のチョイスが素晴らしい。内容自体は雑談でも倉敷氏の聞き方がうまくて、ページを切り取って読んでも面白い。①よりも文章に工夫が見られて、くどさが減ったことにも好感。ウンチクの傾け方にも芸がある。

 

■サッカーと愛国(イースト・プレス 刊) 清義明 著

 

【選考委員評(実川元子)】

ナショナリズムとサッカーというテーマはとても興味深く、時代性という点でも評価できる。取材力については他の候補作とは比べものにならないほど現場に踏み込んでいく勇気が見られ、「裏をとる」というジャーナリズムの基本に真面目に取り組んでいるところにも注目したい。ナショナリズムとサッカー(スポーツ全般かもしれないが)との「親和性」に対して、能天気に浮かれていてはいけないのだ、と釘を刺された。今回の候補作の中ではもっとも「サッカージャーナリズム」として真摯に取り組んだ作品だった。

 

■サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ(カンゼン 刊) 宇都宮徹壱 著

 

【選考委員評(佐山一郎)】

写真撮影も自在な宇都宮さんの本づくりにはアート性があります。アートとジャーナリズムの波打ち際を立ち位置にした人には、意外に思われるかもしれませんが、アンディ・ウォーホルという天才がいます。そうした共通する立ち位置があるためか、デビュー当時から一段上の懇切な本づくりが注目されて来ました。4年前の『フットボール百景』は次点で大賞を逃しましたが、今作は実質4部リーグのJFL所属クラブの観察にコンセプトを絞っての受賞となりました。Jリーグの基底のところで発生している喜怒哀楽への耳の澄まし方、目の凝らし方への高い評価が受賞の理由としてあります。

初の二作品授賞という点では、調整役に徹していた私が今回だけは二作品でと強く推させて頂いたことを付け加えておきます。平均観客数の多くないクラブに注ぐまなざしという点で題材的にもどこかでつながっていそうな気がしています。宇都宮作品が兄の力を示すものであれば、能町作品は妹の力。なので(宇都宮)徹壱お兄ちゃんは、時々妹の相談に乗ってやってください、たぶん怖がって相談には来てもらえないだろうけど(笑)。

 

【選考委員評(幅 允孝)】

地方再生や創生が言われている時代には、サッカーもまたそれの写し鏡というわけである。さまざまなサッカークラブのあり方を紹介しながら、「上を目指すもの」「上を目指さないもの」という双方の可能性への着眼を持ち続け、ずっと定点観測していることに大きな意義を感じさせる。著者が見る日本サッカーの片隅をテキストと写真を駆使して皆に伝えようという強い意志を感じる。

 

【選考委員評(実川元子)】

「日本サッカー」というとどうしても代表とJクラブが「代表」しているように捉えられがちであるが、日本でサッカーがどのように愛され楽しまれているかを見るのであったら、地方クラブの試合を見ることだ、ということに気づかされる。Jをめざすか、めざさないか、ということだけでなく、何のためにサッカーをするのか、おらが町にとってサッカーはどんな意味があるのかを考えさせてくれる。

 

■残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日(講談社 刊) 飯尾篤史 著

 

【選考委員評(幅 允孝)】

著者の熱量が伝わってくる作品。中村憲剛という選手の人柄の描き方に彼と著者との信頼関係が感じられる。中村選手の異彩さのようなものをサッカーという文脈の中でうまくピックアップされている。強いて言うなら物語の終わり方に悩み、苦闘した痕跡をもっと素直に表現してもよかったのでは? とも思った。

 

■君はひとりじゃない スティーヴン・ジェラード自伝(東邦出版 刊)

スティーヴン・ジェラード 著 小林玲子 訳

 

【選考委員評(実川元子)】

ジェラード自身が独白する形で進められているが、単なる自伝にとどまらない、興味深いエピソードも数多く散りばめられていて、非常に読み応えがある。サッカー小僧だった若者が、クラブと代表を背負って立つ存在にまで成長していく過程もストーリーを担っていた。翻訳も読みやすい(ただ、ジェラードが僕というのだけは違和感があったが)。(実川)

 

 ■アーセン・ヴェンゲル アーセナルの真実(東洋館出版社 刊) ジョン・クロス 著 岩崎晋也 訳

 

【選考委員評(幅 允孝)】

著者はアーセナルファンを公言しているにもかかわらず、比較的冷静に、客観的な視点から書かれている。ベンゲル本は数多あるが、膨大な周辺取材によって今までになかったベンゲル象を浮かび上がらせることに成功している。アーセナルファンを公言している僕が冷静に本書をジャッジするのは難しかった。

 

■夢と失望のスリー・ライオンズ イングランド救済探求の時間旅行(ソル・メディア 刊) ヘンリー・ウィンター 著 山中忍 訳

 

【選考委員評(幅 允孝)】

前作の『フットボールのない週末なんて』は短いエッセイの中に古今東西、場所と時間を往き来しながら目の前のゲームを語るという手法が用いられ、今作ではより大きなテーマでそれが行われている。こういう1テーマを掘り下げる本の中では今回、最も読み応えがあった。イギリスの国民性や文化的な部分にも通じるものがある。

 

【選考委員評(実川元子)】

イングランドがなぜ勝てないのかという大きなテーマを多角的に扱っていて、最後まで飽きさせずに読ませてくれる。特に興味深かったのは、2000年以降のイングランドの若手育成の問題を、「外国人選手が増えてクラブで出番がなくなったこと」だけにせずに、イングランド社会(特に家庭)や教育のところまで踏み込んだところが興味深かった。翻訳もうまい。

 

 

>>>最終選考を終えての総評

 

選考委員長:佐山一郎

刊行点数は依然として長期漸減(ぜんげん)傾向ですが、10年ほど前までのサッカー本バブルがむしろ異常事態であったとも言えそうです。量の確保がいずれ質に転換するという期待も事ここに至っては錯覚だったのかと沈思することの多い今日この頃。少数精鋭もまたよいものではないかと改めて思う次第です。

小説作品が一つも優秀作品に上がって来ないという点ではいつもながらでした。次回以降の狙い目は、どうもその辺の未踏領域にありそうです。いっぽう、キャリアの長い方々による集大成的な作品が出て来る予感もしております。加部究『サッカー通訳戦記』の玄人仕事とも言える読み物としての巧緻性も高く評価されましたが、ライフワークと言えそうな長期連載中の『日本サッカー戦記』の単行本化が待たれるところです。翻訳サッカー本大賞の選考過程では、ヘンリー・ウィンター著、山中忍訳『夢と失望のスリー・ライオンズ』が断トツでスムーズに決定しています。

公言こそしていませんが、本賞は若い書き手の登竜門でありたいと念じております。同等の評価となった場合は、より若い年齢の方に贈って来た歴史があります。

この1年のあいだに、優れたご著作を持つ木之本興三さん、岡野俊一郎さんと訃音が相次ぎました。クォリティライフが重要さを増す晩年のご発言の重さに改めて思いを致し、サッカーの言説空間が元の黙阿弥のようなことにならぬよう努力して行くことをこの場を借りてお誓い申し上げます。